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Monthly Report

Monthly Report 2023年1月号

『新年の予測記事は当たらないのが定説』

毎年、年末から年始にかけて、1年(今年は23年)の株価や円の予測を大量に目にする時期だ。雑誌もこの予測特集を組んで売上を伸ばしているとのこと。だが、こうした専門家の予測を信じてはいけないというのが、私の信条だ。(1月3日 文責太田)

目 次
1、日経ヴェリタスの市場予測
2、世界最高の専門家組織が外すほど予測は難しい
3、効率的市場仮設とは
4、2年連続での株価の下げはない?
5、23年は日本経済の転換の年
6、すでに設備投資増と自社株買い増は始まっている
7、22年株式市場の驚くべき粘り強さ
8、世界の10大リスクでロシアはならず者国家

日経ヴェリタスの市場予測

日経新聞が毎週日曜日に発行している、金融経済専門紙である「日経ヴェリタス」は、毎年専門家の1年間の市場予測(社名と名前が出ている)をアンケートしており、1年の最初の日曜日(今年は1月1日が日曜日)の一面に掲載している。実は筆者も現役最後の2016年まで同紙に予想を出していた。当時の締め切りは前の年の12月3日か4日と記憶している。当然掲載まで時間があるので、12か13日ころまで修正が可能だった。
今年のこの新聞の大見出しは「2023年荒天に耐え躍進」というものだった。サブ見出しは「日経平均3万1000円超えへ」となっている。為替については、市場関係者の円の高値平均は122円、足元より10円ほど円高となっている(1月3日129円台)。一方円の平均安値は141円で今のレベルから下落幅は限られている。日銀が20日に長期金利の操作(イールドカーブ・コントロール)の運用の見直し、変動幅を0.25%から0.5%に引き上げると発表したためだと思うが、修正締め切りを22日にしたようだ。したがって、日経平均や円相場の予想には、今回の日銀の見直しが含まれていることになる。
このアンケートでは、予測の高値安値の月も出さなくてはいけない。総じて今年の日経平均は年始安、年末高、円はおおむね第1四半期(1~3月)に円安、年末円高となっている。この年末円高は米FRBが年後半に利下げをすると予測しているからであろう。
筆者の記憶では、2015年の1月から世界の株式市場は大幅下落し(チャイナショックによる)、最初の月からほぼ全員の予測した安値を割ってきたことで見通しが外れたことがあった。翌年2016年の1月も上海株下落で始まり世界的な株安に見舞われた。このように専門家でなくても、予測は「当たらないもの」として見るべき。そもそも経済予測は難しいのだ。メディアは専門家を経済の先行きが予測できるかのように扱うが、予測はしばしば大きく外れる。

世界最高の専門家組織が外すほど予測は難しい

例えば、身近なところで一昨年の21年12月15日の米FOMCでは、利上げ予想を22年末までに3回の利上げ(0.25%ずつ、結果は7回で4.25%の利上げだった)方針を示した。22年のインフレ率2.6%予測(21年9月時点2.2%、実際は22年6月に前年比9.1%を記録)、失業率は3.5%に低下を見込んだ。政策金利に関して、22年は中央値0.87%、23年1.6%、24年2.1%と継続的に引き上げる予想を示していたが、前述のように足元では4%超えている。  
とうとう、22年12月には、FRBはインフレが「一過性」との文言を削除した。米FRBはいうまでもなく、世界のトップクラスの経済の専門家を集めた組織であるが、最も大事な物価見通しも大きく外し連続大幅利上げを敢行したのだ。
筆者の経験から、株価予測では経済見通しそのものの難しさだけが問題ではない。例えば、前述の「日経ヴェリタス」のような予測記事では、締め切り時点での経済指標をベースに予想している。実際は2015年のようにのっけから新たな材料で株価が大きく動くことが頻繁にある。例えば22年12月20日の日銀の政策変更も全く為替市場では織り込んでいなかったため、円は1ドル137円近辺から一気に130円台まで円高が進んだ。その後133円くらいで落ち着きを見せていたが、年明け早々海外で129円台の円高に突入した。日銀の政策見直しに関しては、その意味を市場は消化難の状態と言ってもいい。つまり完全に織り込んではいないのではないだろうか。
では、専門家の予測がなぜ外れるのか、「日経ヴェリタス」の場合、予測の根拠になる経済指標は、12月の初旬のデータから読み込んでいかなければならない。つまり、その時点で株価はそのデータを「織り込んでいる」からだ。極論すれば手元の材料はすでに株価に織り込み済みということだ。

効率的市場仮設とは

「市場が織り込む」ということに関し、効率的市場仮設という金融用語がある。 金融経済学 において市場は常に完全に情報的に効率的であるとする仮説 。ここで言う情報的に効率的であるとは、金融市場における金融商品の価格がその商品の価値を決定づける情報を反映しているという意味である。株式市場には利用可能なすべての新たな情報が直ちに価格に織り込まれており、超過リターン(投資家が取るリスクに見合うリターンを超すリターン)を得ることはできず、株価の予測は不可能であるという学説である。
これに対し、効率的市場仮説では実体経済からみて株価が割高になるバブルの発生やその崩壊が説明できないとする批判が、特に行動ファイナンスの観点から根強くあるのも事実だ。行動ファイナンス理論では、投資家は必ずしも合理的ではなく感情や心理状況に左右されるため、バブルの発生のように誤ったコンセンサスの均衡状態が続くことで企業業績などファンダメンタルズからの大幅乖離(かいり)も一定期間続く可能性があるとする。
2013年のノーベル経済学賞は「株式や債券市場の短期的な動きを予測するのは無理だが、中長期的には予測可能性の余地がある」という見方のもと、効率的市場仮説を1960年代から中心的に提唱してきたユージン・ファーマ(Eugene Fama)氏と、効率的市場仮説に批判的立場の行動ファイナンス派ロバート・シラー(Robert Shiller)氏の米学者双方に与えられ、反響を呼んだ。
つまり、専門家は足元の経済指標や環境をベースに予測を立てており、そのベースになるものは、効率的市場仮設ではすでに株価に織り込まれていることになる。筆者の経験から、「日経ヴェリタス」や他のメディアのように今年1年といった短期的な動きを予想するのは無意味(外れる公算大だから)と思っている。効率的市場仮設によれば、織り込まれている材料で予想を立てているから外れる公算が大きいということになる。したがって、筆者は短期的より、むしろ中長期的な予測はある程度効果的と常に考えている。

2年連続での株価の下げはない?

23年を考える際、主要株式相場が2年連続で下げるのはまれだという事実が強気派にとっては支えになっているのかもしれない。1928年以降、米S&P500株価指数が2年連続で下落したのは4回だけ。ただし、実際にそうなった場合、2年目の下げは1年目より大きくなる傾向がある。
また、22年の投資のリターンはほとんどすべての投資家にとって最悪だった。世界の金融市場の指標となる米債券と米株価のリターンがそろってマイナスだったからだ。このことは、1926年以降、1931年、1969年、そして昨年2022年と100年の米金融市場の歴史の中でわずか3回しか発生していない。しかも、2年連続というのはない。したがって、2023年は債券か株価はプラスのリターンが期待されている。


23年は日本経済の転換の年

 「日経ヴェリタス」では、インフレや新型コロナとも「終わりの始まり」にあり、23年は日本経済の「リオープン」としている。筆者はむしろ「23年は転換の年」だと考える。 
22 年は為替の大変動の年だった。市場参加者は為替を結果(過 去に起きたことに追随して動くもの)と考えがちだが、多くの歴史的事例は為替が事後に 大きな変化を誘発する原因として機能してきた。少し大げさに言えば、為替こそ市場がその意思を実現するための手段なのだ。
そういう意味では、2022年は1年で37円も円安となった激動の年だったが、23 年は世界と日本経済の転換を展開していくものと思われる。その「日本経済の転換の年」を意識したのは、12月20日の日銀による長期金利操作(イールドカーブコントロール)の見直しを発表した時だ。日経新聞などは、日銀敗退、金利急騰などネガティブな評価をしているが、筆者は、この見直しはデフレ脱却であり、アベノミクスの終焉を意味するとみている。デフレ脱却からは、企業経営者に政策の転換を促す意味があると思っている。

すでに設備投資増と自社株買い増は始まっている

すでに変化は起きている。企業の国内における設備投資意欲は急激に高まっている。日銀短観や日経新聞などの設備投資調査では、すでに 2022 年において設備投資が過去最高レベルの伸びとなっている。円が安定化すると予想される2023 年には、企業はより国内投資に本腰を入れるだろう。 設備投資増加、労働者争奪による賃金引上げなど 国内生産体制の構築には、高い賃金を払ってでも良い人を採用し、競争力のあるチームを 作らなければならないことを意味していると思っている。
そもそも日本のデフレの起点は、円高で競争力を失った企業の賃金抑制にあった。しかしこれからは、企業は「労働はコストではなく価値を創造していく」という認識の転換が必要である。日本生命が営業職の賃金を 7%引き上げると表明するなど、他にも賃金引上げを表明する企業が増えてきていおり、すでに変化は起きている。さらに日銀の政策見直しは企業の財務資本政策も大転換を促すものだ。その柱が自社株買いだろう。バブル崩壊以降、日本企業は保守的財務戦略に徹してきた。借金を減らし、利益の社外流出を抑えて自己資本を厚くし、ひとたび危機が起きた時に備えるため財務体質の強化に励んできたのだ。
これまで日本企業の極端な財務戦略の保守性が際立っていた。当たり前のことだが、資本効率を無視し安全性のみにこだわった戦略をとっていると、今回のような円安を利用し海外からのM&Aが活発になってくることは必然だ。
円安をキッカケだと思うが、日本企業の自社株買いは急増している。2022年は前年の751社から989社に増えている。代表的なところで、トヨタは昨年5000億円の自社株買いを実施した。NTTドコモは3000億円を実施。円金利の上昇下では、企業は明らかにアニマルスプリットを取り戻さなければ生き残りも難しくなる。金利の上昇は自社株買いに拍車がかかるだろう。
日銀の政策見直しの狙いは何だったのだろうか。様々な解釈があるかもしれないが、筆者は前向きにとらえ、一つには企業経営者にアニマルスプリットを促す目的もあると思っている。

22年株式市場の驚くべき粘り強さ

ロシアのウクライナ侵略、中国習個人独裁の確立、北朝鮮やイランの動向から専制主義国の台頭など、世界は再度冷戦状態に入ったかの様相を帯びている。そうした環境下で、22年の世界の市場は意外と底堅かったのではないだろうか。米国では40 年ぶりのインフレ 。CPI(消費者物価指数) 上昇率は、ピーク 9.1%(6 月)、年平均 8.1%(IMF 予想)、コア CPI 6.2%となり、FRB は空前のスピードの利上げ(10か月間で 7 回、0%から 4.25%への 425bp) で対応した。これは 2022 年の年初には想像すらできない事態であった。おそらく22年の日経ヴェリタスの予想は誰も当たっていないと確信している。
株価にネガティブな材料が目白押しだったにも関わらず、S&P500指数は年初の最高値から 25%下落、1年間で 19.44% 安の水準、NY ダウは最大で 22%安、1年間で8.78%安であり、いずれもコロナショック前のピークを 10%程度上回っており、長期上昇トレンドは崩れていないのかもしれない。株価の粘り強さが目立った1年だった。
日経平均も2022年は9.37%の下落。1年の終値は2万6094円とかろうじて2万6000円をキープ。この日の予想 EPS(1株利益)2147円、PER(株価収益率、株価÷利益)は 12.15 倍である。2023 年、EPS が 5%増の 2254 円と予想した場合、 PER13 倍で日経平均 29306 円、過去 10 年間平均の 15 倍とすれば、32205 円と計算される。130円近辺の円水準で堅調な国内経済を考えれば、5%増益予想は控えめな前提とみられるが、米国の市場ムードが利下げなどで一変する年後半には日本株ブームが到来する可能性が大きい。そうなれば、2024 年か2025年には日経平均は史上最高値を更新し、40000 円に到達する可能性が高いと考える。

世界の10大リスクでロシアはならず者国家

年明け早々、ユーラシア・グループが今年の10大リスクを発表した。同グループは地政
学リスクを専門に扱うコンサルティングファームの先駆けとして1998年に設立されている。今年の10大リスクのトップは、「ロシアが世界で最も危険な、ならず者国家になる」と説明した。2位は中国の習近平国家主席。権力集中でチェック機能が働かないため、重大なミスをする可能性が高いとした。なかなか興味深いが、こうしたリスクが現実化しないことを祈る。
投資家は専門家の予測を参考にして投資を実行することはやめたほうがいい。投資家にできる最善の方法は自分にとって適切なリスクを取り、広く分散投資を実行することをお勧めする。専門家の予測については、それが外れても責任を取ってはくれない。あくまでも「自己責任」だということを認識していてほしい。予測特集号を見る際は、専門家の目の付け所に注意するくらいにとどめておきたい。さらに多数の市場関係者が参加している場合は、少数意見に耳を傾けるくらいにしておいたほうがいい。

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本資料、一般社団法人FLSG(以下当会といいます。)が投資家の皆様に情報提供を行う目的で作成したものであり、投資の勧誘を目的に作成されたものではありません。本資料は法令に基づく開示書類ではありません。本資料の作成にあたり、当会は情報の正確性等について最新の注意を払っておりますが、その正確性、完全性を保証するもではありません。本資料に記載した当会の見通し、予測、意見等(以下、見通し等)は、本資料の作成日現在のものであり、今後予告なしに変更されることがあります。また、本資料に記載した当社の見通し等、将来の景気や株価等の動きを保証するもではありません。

■レポート著者 プロフィール
氏名:太田光則
早稲田大学卒業後、ジュネーブ大学経済社会学部にてマクロ経済を専攻。
帰国後、和光証券(現みずほ証券)国際部入社。
スイス(ジュネーブ、チューリッヒ)、ロンドン、バーレーンにて一貫して海外の 機関投資家を担当。
現在、通信制大 学にて「個人の資産運 用」についての非常勤講師を務める。
証券経済学会会員。

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