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Monthly Report

Monthly Report 2022年12月号

『日本の安定性を買う、23年は日本株の復活』

日本株を語るとき、チャーチルの名言が参考になる。彼は言う。「凧は追い風ではなく、逆風に向かう時最も高く上がる」「悲観主義者はあらゆる機会の中に困難を見いだす。楽観主義者はあらゆる困難の中に機会を見いだす」(12月1日 文責 太田)

目 次
1、2022年は歴史的な年
2、日本経済は終わったのか
3、成長のない日本経済、日本の安定性を評価すべき
4、海外投資家は「安定した投資対象」を求めている
5、「膨張しない時代」の始まりは日本株優位
6、「膨張しない時代」は成長株よりバリュー株で
7、低物価国、日本へ世界の需要高まる
8、急増し始めた国内設備投資

2022年は歴史的な年

 このところ、日本株の復活を唱える市場関係者が増え始めている。その背景には米国市場がインフレと企業業績の悪化によるスタグフレーションを意識し、代わりに日本株が注目されるようになったのかもしれない。

2022年の米国の金融市場は最悪の状況でもあった。米債券市場と株式市場のいずれもマイナスのリターンになりそうだからだ。米国の100年の金融市場の歴史において、債券と株式のいずれもマイナスリターンとなったのは、1931年と1969年の2回しかない。そして今年が3回目となる、いわば歴史的な年になるのだ。

 1931年は、ご存じの通り、1929年10月24日(ブラックサーズデー)の大暴落(12.8%の下落率)に始まり、週明け28日(ブラックマンデー)の12.82%の下落率、29日(ブラックチューズデー)の11.73%の下落率と続いた。この年、暴落前の9月3日にNY ダウは381.17ドルの最高値を付けていたが、一時的な安値は11月13日のNYダウ198.60ドルまでわずか2か月で高値から半値になったのだ。その後いくらか戻したが、31年4月に再び下げ始め、翌32年7月8日にはNYダウ41.22ドルを記録した。29年9月の最高値から89%下げたことになる。つまり31年はNYダウの大幅下降トレンドのさ中にあった。

 そして1969年は65年に始まったベトナム戦争の戦費増大に伴い、財政赤字が拡大した。その結果インフレ率が6.4%に達した。現在の米国のインフレ率は9%だから、当時は現在よりインフレ率は低いが、中央銀行は金利を4%から9%まで引き上げた(現在政策金利は4%)。これでは債券、株式ともにマイナスのリターンは避けられない。

 今年2022年は米株式、債券市場にとって歴史的に厳しい年であったが、過去の2例をみても、翌年は続いてはいない。つまり23年は債券か株式市場のどちらかが回復しプラスのリターンが期待できる。おそらく23年前半は債券、後半は株式市場がよくなると考えている。前半の債券高は22年急速なFRB による利上げの結果、インフレもいくらか収束し、経済指標も悪い数字が出始めるだろう。そうであれば、米国債の利回りも低下、もしくは上がらない状況が予想される。株価はこの間、業績悪化に見舞われ、金利が高止まりしている間は上昇が見込めない。本格的な上昇は利下げ観測が出始める23年後半になるだろう。

 長期的な観点から、2022年の米債券、株式市場のマイナスのパフォーマンスはおそらく何らかの転換点を示唆していると考える。この数年、とりわけ米市場は金融緩和バブルの恩恵を受けてきた。おそらく22年はそれが弾けたことを意味している。

日本経済は終わったのか

 大多数のエコノミストたちは、「欧米は物価も上がっているが、賃金も上がっている。賃金が上げられる経済だから、物価が上がっても大丈夫であり、日本のように賃金が上げられない経済は最悪だ」として、日本経済を「世界最悪だ」とこき下ろしている。

 有識者たちは「真の日本経済の問題はもっと根深い。いちばんの問題は、この10数年、米国では高い経済成長率を実現したのに、日本は低成長に甘んじたことだ。賃金、物価が上がらない、つまり変化が起こりにくい、ダイナミズムが不足しているのではないか」と懸念する。「米国には圧倒的に差をつけられ、中国にも抜かれてしまった。日本経済からダイナミズム、イノベーション、そして経済成長が失われてしまったことが大問題なのだ」と嘆く。

 円安が1ドル=145円を超えて150円に向かおうとしたころ、世間では「日本経済は終わった」「この世の終わりだ」といったような雰囲気になっていた。ある月刊誌などは「日本ひとり負けの真犯人は誰か」などという特集まで組んでいた。

成長のない日本経済、日本の安定性を評価すべき

 なるほど、これは、成長のない日本経済の弱点と言える。しかし、しかし、何事も長所と短所には考え方次第では表と裏がある。日本経済の特徴は、流動性に欠け、変化やダイナミズムは少ないが、その一方で、抜群の安定性がある。1970年代のオイルショックでも物価高騰を抑え込み、リーマンショックでもコロナでも、失業率の上昇は、欧米に比べれば、無視できるほどだ。

 21世紀になっても給料が上がっていないことを指摘されるが、その理由は3つある。第1に1990年時点の給料がバブルで高すぎたこと(80年代の給料を経験している人は現在50歳以上であり、若い人はバブル経済を知らない)、第2に正規雇用と非正規雇用という不思議な区別があり、1990年時点の前者のグループの給料が高すぎた。そのために、90年以降、後者のグループを急増させたため、2つのグループを合わせた平均では下がることが必然であることだ。第3に、雇用の安定性を最重要視していること、である。

 第1の問題は、それを経験していない人が今後も増え続け、やがて忘れられてしまう。第2の問題は日本のマクロ経済の問題ではなく、日本社会制度の問題であり、非正規雇用というものを消滅させ、すべて平等に扱うことが必要だ。第3の問題は、日本人が、社会として歴史的に選択してきた結果である、ということである。

 1973年に起きたオイルショックのときは、その後の労使交渉が友好的にまとまり、賃金引き上げを社会全体で抑制できた。これにより経済の過熱を抑え、世界で日本だけがインフレをすばやく押さえ込み、1980年代には日本の経済が世界一となった。

 これと同じで、賃金が上がらない経済のほうが、現状では望ましいのかもしれない。米国などはそれこそ賃金上昇を死に物狂いで金利引き上げで抑え込もうとしている。つまり、賃金の上がらない日本経済は、現在のスタグフレーションリスク(景気後退とインフレが同時に起こる経済環境)に襲われている世界経済の中では、うらやましがられる存在であり、世界でもっとも安定して恵まれているのである。

 「日本の安定性」をもっと積極的に評価すべきであり、23年には世界中の投資家も日本の国内債だけでなく、株式市場においても「日本の安定性」に目を向けることは確実だ。

海外投資家は「安定した投資対象」を求めている

 11月25日のブルームバーグによると、海外投資家が日本の債券を積極的に購入しているようだ。短期債を含めた買い越し額は週間ベースで約2年ぶり高水準。そこには欧米中央銀行による積極的な利上げで外債の価値は目減り状態。一方、国内債は為替ヘッジ後の金利水準の高さやボラティリティー(変動率)の小ささが海外勢を惹きつけているようだ。

 財務省が25日に発表した対外及び対内証券売買契約等の状況(週次・指定報告機関ベース)によると、11月13日~19日の週の海外投資家による中長期債投資は2兆2168億円の買い越し、短期債投資は3兆5574億円の買い越し、合計した円債全体の資金流入額は5兆7747億円となり、21年1月4日~9日以来の高水準となったようだ。

 9月から10月にかけて、英国発の債券市場の混乱があっただけに、日本国債は金利リスクが小さいということもあって安定的な運用を求めて海外勢からの買いが集まったのだろう。日本を海外勢から見るとき、この「安定性」というのが重要なキーワードになってきている。22年は前述したように米金融市場が荒れていたこともあって、投資家はこの「安定性」を求めて資金を少しずつ移動させ始めている。


「膨張しない時代」の始まりは日本株優位

 第2次世界大戦後、世界はずっと膨張経済の時代だった。その下で、1990年の冷戦終了により、金融バブルが始まった。これは誰が何と言おうとバブルだ。そして、そのバブルが膨張と破裂を繰り返し、いよいよ最後の「世界量的緩和バブル」が弾けつつあったところに、今度はコロナバブルが起きた。そして、それが今インフレにより、米国は22年3月にゼロ金利を解除、金利を0.25%引き上げた。ここから世界経済は着実に萎み始めている。そして、萎んだ後は、長期停滞、膨張しない経済、膨張しない時代が始まるのかもしれない。
この「膨張しない時代」においては、日本経済と日本社会の安定性、効率性という強みが発揮されることになるのである。

 日本株を取り巻く相場環境は約30年ぶりとも言えるような変化に見舞われており、投資家は大きなトレンドの反転に備えるべきだ。

 日本のファンダメンタルズは日本が強かった1990-91年以来とも言えるような良い方向に来ている。日本株には今後十数年続きそうな大きな変化が今まさに起きている。

 30年超ぶりの変化として、GDP(国内総生産)成長率や企業業績の2年連続の対米アウトパフォーム見通し、為替の円安水準、記録的な伸びが見込まれる設備投資などを挙げた。

 ブルームバーグ・データによると、米S&P500株価指数のうち、相対的にバリュー(割安)株が多いとされる資本財・サービス指数が全体に占める割合は時価総額ベースで8.5%と全11業種の中で5位。それに対し、TOPIXでは24%と首位。日本株にはバリュー株のウェートが圧倒的に高いのだ。日米の産業構造のこうした違いを踏まえれば、バリュー株の評価が高まれば日本株の追い風となりやすい。

 「バリュー株」とは、割安株とも呼ばれ、本来持っている価値(その会社の利益・資産等に対しての評価)に比べて、株価が低いと思われる銘柄をいう。具体的には、様々な投資尺度から見て、株式市場の平均値や同業他社と比べて割安と判断される。指標面で、PER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)、PCFR(株価キャッシュフロー倍率)などの水準が低い銘柄のことだ。

 この反対がグロース株で成長株とも呼ばれ、将来業績の伸びや成長が期待されている銘柄。売上高や経常利益が年々増加傾向にあり、成長性のある企業が該当する。特に現在の市場ではIT株のことをいう。

 米国市場では、ITテクノロジー企業(グロース株)に金融緩和下の資金が集中していた過去数十年は、設備投資や実物経済の相対的な重要度が低下していた。しかし、地政学リスクやESG(環境・社会・企業統治)の観点からグローバルサプライチェーンが再構築を迫られる中で、FRBが今年になって急速に金利を引き上げたことで、IT企業には逆風が吹き始めている。代表的な銘柄であるアップルの株価は22年11月29日現在141.17ドル、史上最高値は20年6月9日に343.99ドルを付けている。テスラの株価は22年11月29日は189ドル、最高値は21年10月22日に付けた909.68ドル。この時同社の時価総額は初めて9,000億ドルに達し米国で6番目に大きな企業となった。グロース株のPER は総じて高い。アップルのPER は23倍(S&P500 も23倍)、テスラは111倍だ。それではなぜPER が高い銘柄は金利上昇で不利か。PER の逆数を益利回りという。PERが20倍なら5%で株価は1株純利益の何%を表す。アップルの益利回りは1÷23=4.3%、テスラは0.9%になる。そして日経平均のPERは13倍弱、益利回りは1÷13=7.7%と前述の2銘柄より圧倒的に割安といえる。国債利回りより株式の益利回りが高ければ、圧倒的に割安といえる。

「膨張しない時代」は成長株よりバリュー株で

 21年まではIT 企業が市場の中心あったが、「膨張しない時代」においては液化天然ガス(LNG)プラントや廃棄物処理、環境プラントなどの資本財が必要になっていくとみる。

 資本財とは経済学用語の一つ。将来の利益が期待できる生産の資本となるような財のことを資本財という。機械、建物、道具などや、原材料など。経済産業省統計による資本財の生産,出荷指数は設備投資の動向を判断する重要な景気指標として使われている。

 資源・エネルギー分野をはじめとする資本財は投資に時間がかかるため、大きなトレンド転換を受けて数年から10年程度にわたって関連企業の収益構造は持続的に変わっていく。世界の株式市場においても、中長期的にバリュー株(割安株)がグロース(成長)株へと変化するのではないかとみている。

低物価国、日本へ世界の需要高まる

 2023年にかけて日本株式は世界最高のパフォーマンスが期待される。第一に日本経済と企業業績が世界で最も堅調と予想される。2023年の経済見通しは日本が先進国中で最も高くなると予想されている。IMFは7月時点で(米国1.0、ユーロ圏1.2%、日本1.7%)、OECDは9月時点で(米国0.5、ユーロ圏0.3%、日本1.4%)と予想している。日本経済は、①世界的金融引き締めの中で緩和基調が維持されていること、②コロナパンデミックに対する過剰反応から最も経済の落ち込みが大きかったが、その反動(リベンジ消費など)が期待できること、③円安のプラス効果が発現すること、等が予想されるからである。ことに円安の波及効果は甚大となるだろう。超円安により日本はかつての高物価国から新興国並みの低物価国となったが、低物価国日本へと世界の需要が大きく集まり始めている。まず輸出競争力が高まり輸出数量が増加し始める。また輸入品を国内製品に代替することが起きる。かつての超円高の時代に日本企業は海外に工場を移し、国内需要は安い中国品に蚕食されたが、今その逆のことが起きつつある。割安になった日本で商品を調達し海外へと転売する越境EC(イーコマース)が活況を呈している。この日本への需要集中はまだ始まったばかりであり、これが奔流のように力を増していくことは疑いない。

急増し始めた国内設備投資

 国内設備投資急増の兆しが表れている。9月の日銀短観の2022年度の設備投資計画は、全産業16.4%、製造業21.2%と過去最高の伸びとなった。シリコンウエハー主体の非鉄金属、化学、電機、機械などの円安の恩恵を受けるハイテク産業の伸びが大きい。総額1兆円に達するTSMCの熊本工場建設も動き始めた。またスバル大泉工場でのEV生産棟60年振りの新設、ルネサスエレクトロニクス甲府パワー半導体工場再稼働、SUMCO伊万里新工場建設、住友金属工業ニッケル電極材の新居浜新工場建設、アイリスオーヤマ中国家電生産の一部国内移管、京セラ鹿児島川内工場半導体パッケージ用新棟建設、ダイキン工業中国依存のサプライチェーン国内移管、キャノン21年振りで宇都宮に露光装置工場新設、安川電機基幹部品生産の国内回帰と福岡行橋工場建設、富士フィルムバイオ医薬品受託生産富山工場建設、など100億円規模の投資プランが続々と動き始めている。今後円安定着がはっきりするにつれて国内への工場回帰が強まり、投資の伸びはさらに高まるに違いない。

 こうしてみると、「膨張しない経済」下では圧倒的にバリュー株が脚光を浴びるだろう。日本株はまさしくバリュー株なのだが、投資の神様、ウォーレン・バフェット氏は日本株の代表的なバリュー株である5大商社の株 を発行済株数の6%強保有している。これも同氏は米企業に比べ日本企業の割安感と安定性を買ったのだろう。

 23年は日本株復活元年になりそうだ。そして1989年に付けた日経平均38915円抜けが、今後数年以内に現実味をおびてくるだろう。

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本資料、一般社団法人FLSG(以下当会といいます。)が投資家の皆様に情報提供を行う目的で作成したものであり、投資の勧誘を目的に作成されたものではありません。本資料は法令に基づく開示書類ではありません。本資料の作成にあたり、当会は情報の正確性等について最新の注意を払っておりますが、その正確性、完全性を保証するもではありません。本資料に記載した当会の見通し、予測、意見等(以下、見通し等)は、本資料の作成日現在のものであり、今後予告なしに変更されることがあります。また、本資料に記載した当社の見通し等、将来の景気や株価等の動きを保証するもではありません。

■レポート著者 プロフィール
氏名:太田光則
早稲田大学卒業後、ジュネーブ大学経済社会学部にてマクロ経済を専攻。
帰国後、和光証券(現みずほ証券)国際部入社。
スイス(ジュネーブ、チューリッヒ)、ロンドン、バーレーンにて一貫して海外の 機関投資家を担当。
現在、通信制大 学にて「個人の資産運 用」についての非常勤講師を務める。
証券経済学会会員。

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