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Monthly Report

Monthly Report 2022年10月号

『米国株崩れて日本株見直し』

日米など主要国の株価が9月後半の約2週間で大幅に下落している。とくにNYダウは、最近の戻り高値である9月12日の終値3万2381ドルから30日には2万8725ドルと、3週間弱で3600ドル強も下落。6月17日の安値2万9889ドルも割り込み、年初来安値で期を終えた。(10月2日 文責太田)

目 次
1、米株に連れ安する日本株
2、世界はインフレ、日本は比較的安定
3、日本経済が悩む円安、日銀政策に問題アリ
4、日本経済の長所と短所、「日本の安定性」をもっと評価すべき
5、世界は「膨張しない時代」が始まる
6、米QTで「膨張しない」時代が始まった
7、日本株割安論の理由

米株に連れ安する日本株

この米国株の下げが日本株の重しともなり、日経平均は9月13日の終値2万8615円から月末の30日の2万5937円まで、わずか11営業日で2678円の下落となった。この間円安が1ドル=145円にタッチ、9月22日の円買い介入によってかろうじて円安の進行は145円手前でストップしている。超円安、NY 株価に連れ安する日本株、こうした動きを見て、世間では「日本経済は終わった」といった雰囲気も感じられる。
世界は何をいま騒いでいるか。インフレである。インフレが大変なことになり、慌てふためいて、欧米を中心に世界中の中央銀行が政策金利を急激に引き上げている。その結果、世界の株価が暴落している。実体経済は、この金利引き上げで急速に冷え込みつつある。一方、インフレは収まる気配がないから、いちばん嫌なスタグフレーション(景気後退とインフレが同居)の確率が次第に高まってきている。結局、世界経済は、「長期停滞」局面に入りつつあるのかもしれない。世界の景気敏感株である日本株の低迷は、この世界景気の冷え込みを反映している。

世界はインフレ、日本は比較的安定

株価とは別に実体経済を見ていくと、日本のインフレはどうか。足元では日本だけが世界と正反対の状況になっている。世界の主要国の中で唯一、インフレが起きていない。企業物価は大幅に上昇しているが、それが消費者物価に反映されるまで非常に時間がかかっており、英国の年率10%、アメリカの8%とは次元が違う2%程度となっている。
英国では、一家計あたりの年間エネルギー関連の支出が100万円超の見込みとなり、トラス新首相は、補助金をばらまくことによって、実質20万円以下に抑え込む政策を発表した。だが、これによる財政支出は約25兆円にもなると言われており、英国債利回りは急上昇している(その後、英中央銀行は国債買い入れを発表し、多少落ち着いてきた)。
これに比べると、日本の電気料金は比較的落ち着いている。原油価格の上昇が止り、円安が止まれば、さほど問題ではなくなってくるのである。
このような物価が安定した経済においては、中央銀行は急いで政策金利を引き上げる必要はない。だから、日本銀行は、世界で唯一、金融政策を現状維持できるのだ。

日本経済が悩む円安、日銀政策に問題アリ

現在、日本を騒がせているのは円安である。これは、アベノミクスが始め、現在も続く異常な規模の異次元金融緩和を、普通の金融緩和にすれば、直ちに解消する。
足元では、「連続指値オペ」という、日銀が毎日10年物の国債金利を指定する利回り(上限0.25%程度)で原則無制限に買う政策は、金融市場を完全に殺すものであり、この特別な政策を直ちに取りやめたら円安は止まるとみている。
また、イールドカーブコントロールと呼ばれる「10年物の金利をゼロ程度に抑え込むことをターゲットとする」という、これまた過去ほとんど類を見ない政策をやめれば、異常な円安は直ちに解消する。
要は、日銀が特異なことをやめ、普通に金融緩和を続けるだけで異常な円安も解消するだろう。異次元緩和の修正はあるのだろうか。日銀の総裁人事などによって異次元金融緩和の修正が目指される展開も予想される。2023年4月8日に、異次元金融緩和の強化と継続にコミットした日銀の黒田総裁は任期満了を迎える。そして新しい総裁の下で、日銀は金融政策の正常化に慎重に取り組む可能性が高い。その展開が現実のものとなれば、日米の金利差はこれまでのようには拡大しづらくなるはずだ。その結果として、円売り圧力は徐々に弱まるだろう。年内には新総裁が決まれば、おそらくその時点で為替市場の見方は変わる可能性が非常に高い。決定的な円安反転が起こると思っている。

日本経済の長所と短所、「日本の安定性」をもっと評価すべき

有識者たちは「真の日本経済の問題はもっと根深い。いちばんの問題は、この10数年、米国では高い経済成長率を実現したのに、日本は低成長に甘んじたことだ。賃金、物価が上がらない、つまり変化が起こりにくい、ダイナミズムが不足しているのではないか」と懸念する。「米国には圧倒的に差をつけられ、中国にも抜かれてしまった。日本経済からダイナミズム、イノベーション、そして経済成長が失われてしまったことが大問題なのだ」と嘆く。
確かにこれは、日本経済の弱点と言える。しかし、何事も、長所と短所がある。日本経済の特徴は、流動性に欠け、変化やダイナミズムは少ないが、その一方で、抜群の安定性がある。オイルショックでも物価高騰を抑え込み、リーマンショックでもコロナでも、失業率の上昇は、欧米に比べれば、無視できる程度だ。
21世紀になっても給料が上がっていないことを指摘されるが、その理由は3つある。第1に1990年時点の給料がバブルで高すぎたこと、第2に正規雇用と非正規雇用という不思議な区別があり、1990年時点の前者のグループの給料が高すぎた。そのために、後者のグループを急増させたため、2つのグループを合わせた平均では下がることが必然であることだ。第3に、雇用の安定性を良くも悪くも最重要視していること(雇用の流動性欠如)、である。
高卒資格を持ってない人の平均賃金を日米で比較すると、日本の方が高い。しかし、全体の1人当たりの所得は米国の方が高いが、米国では経済的に弱い人は日本よりも弱いことになる。マクロ的に見ると、米国経済は日本より成長している。だが、所得分配のあり方とか社会の分断という観点では、国民が米国流の成長を望むのかどうか。


世界は「膨張しない時代」が始まる

第2次世界大戦後、世界経済は膨張を続けてきた。1990年の冷戦終了により、金融バブルが始まった。そして、世界経済は膨張と破裂を繰り返し、いよいよ最後の「世界量的緩和バブル」が弾けつつあったところに、コロナ禍で再び世界的な金融緩和バブルが起きた。その結果が今インフレにより、膨張した経済は破裂するのではなく、金利高で着実に萎み始めているのである。そして、萎んだ後は、長期停滞の時代、いわゆる「膨張しない時代」が始まる予感がする。この「膨張しない時代」においては、日本経済と日本社会の安定性、効率性という強みが発揮されることになるのである。

米QTで「膨張しない」時代が始まった

9月13日のNYダウは、8月のCPI(消費者物価指数)が予想を上回る前年同月比+8.3%を嫌気して前日比1276ドル安(3.9%安)と急落。翌14日の日経平均株価も一時819円安となり、まだ楽観的だったマーケットにとどめを刺すような格好となった。これは、市場が20~21日に開催されるFOMCでの「利上げ継続」「QT本格化」をさらに意識する内容だったからだ。非常に残念だが、日本株は米国の金融引き締めによる同国株下落の悪影響をまともに受ける形で、さらに下落するとの見方が消えない。
もう一つの問題は米国のQT(量的引き締め)だ。米国は9月からさらに量的引き締めを強化した。どうも、この「QT本格化」の悪影響について、市場関係者のコメントが少ないように感じている。
FRBの資産規模は、2007年1月には約0.9兆ドルしかなかった。だが2008年のリーマンショック以降の金融緩和で急増、2015年には4兆ドルを超えた。その後は4兆ドル前後を維持していたが、コロナショック後の緩和でさらに急増、2022年3~4月の約9兆ドルまで膨れ上がった。いわゆる「膨張する経済」だったのだ。
この膨張する経済はほぼ米国の株価と連動しており、FRBはQT(資産規模縮小、金融引き締め)によって、今年から資産規模を3年かけて約3兆ドル減少させ、約6兆ドルにまで減らす予定だ。
具体的に言えば、FRBは6月から毎月300億ドル資産を減らしてきたが、この9月から毎月950億ドル減らしている。ラフな試算ではあるが、今後3年間のS&P500種指数のEPS(1株利益)予想を横ばいとすると、3年後のS&P500種指数はコロナショック直前2年間の株価レンジ(2500~3000ポイント)まで下落するリスクがある。
一部のマーケット関係者は「QT本格化はすでに発表され、織り込み済みだ。しかも3年かけてゆっくり実施するので大きなインパクトはない」と一蹴する向きもある。足元の株価の下落を見ていると、まだまだ織り込まれていないように感じている。
正直なところ、株価の先行きを予測するには不透明な要因(地政学リスク、インフレの行方や世界景気の減速リスク・米欧の金融政策の引き締めリスクなど)が多すぎる。
当初から短期的には9月21日のFOMCの結果発表前後までは米株は下落が続くとみていた。その間日経平均株価は2万7000円前後までの下落が視野に入るだろうと思っていた。しかし、どうやらFOMCの結果が「悪材料出尽くし」になっていないようだ。現状、しばらく、例えば10月中旬ころまで下落が続き、この間日経平均も一時的に2万6000円近辺で推移するとみている。

日本株割安論の理由

日本株の割安論が言われて久しい。9月30日の日経平均予想PER(株価÷1株予想利益)は12倍ヲ割って11.95倍、11倍台というのは記憶にはないほど割安になっている。米国株も予想PER15倍台とピークの23倍台から低下してきたが、日本株のPER は低すぎる(割安)。
日本株低迷の理由として、日本株は世界の景気敏感株だからと割れているが、筆者は円安と岸田政権がその理由とみている。円安は日本株にプラスではという指摘があるが、今や海外に生産基地を移した大企業にとっては、以前ほどのプラスの影響はない。むしろ、日経平均のドル建て価格(円建て日経平均÷円ドルレート)を見ると、9月30日に179.47ドル。この数年の安値は2020年3月の177.02ドルがある。この時の日経平均は16,552円を付け円ドル相場は109円台だった。
現在の日経平均は当時のレベルをはるかに上回っている。しかし、当時より、30円以上の円安のため、ドル建て日経平均は当時と同じレベルまで下がっている。つまり円安が止まらない限りドル建て日経平均は下げ止まらない。これでは、円建て日経平均がいくら上がっても円安が進行すればドル建て日経平均は下がることになるから、海外投資家が日本株に参戦するのは控えることになる。円安反転まで、海外投資家の参戦は期待できないようだ。
もう一つは岸田政権だ、この政権は昨年10月4日にスタートした。まもなく1年だが、日経平均の最近の高値は1年前の9月14日の3万670円だ。政権発足から1年、日本株を海外勢は売り越してきた。9月22日岸田首相はNY証券取引所でスピーチを行った。9年前、安倍元首相も行った。どうやら安倍元首相のスピーチほど印象には残らなかったようだ。
「新しい資本主義」も感性の悪い官僚に書かせた内容だし、おそらくNYでのスピーチ、安倍元首相の国葬での弔辞もそうだが、実感が伴わない(内容が薄い)首相のスピーチでは海外投資家は動かない。ただし筆者は「新しい資本主義」には賛成だ。中身は違うが。 
岸田政権は今夏の参議院選挙後の3年間で、何をするかだ。岸田首相の「新しい資本主義」という言葉について、「空回りして中身がないじゃないか」という批判があるが、「これまでと同じではだめなのだ」というメッセージだとすれば、時代感覚としては正しい。
そして1980年代までの日本経済は、製造業を中心とした第2次産業革命の波にうまく乗って高度成長してきた。その成功にこだわって、次にやって来たIT革命には、完全に波に乗り遅れた。大敗を喫した。しかし、幸いなことに3回戦が始まろうとしている。それはロボティクスであり、AIだ。新しいゲームはチャンスなのだ。ここに日本のチャンスが残されている。
目先、日本株はさらなる下落があったとしても、その後、年末までの株価見通しはかなり楽観的だ。日経平均の年内の戻り高値は2万9000円前後を見ている。もし、この後に来る株価下落が想定以上だとしても2万8000円以上の反転はあるとみることにも変わりない。  
なぜなら、日本株は米国株と相対比較して予想PER(株価収益率)などのバリュエーション(企業価値評価)も低く、また企業統治改革の余地も高いという点で、魅力的だからだ。米国株の下落に伴う、日本株の押し目買いを仕掛ける大きなチャンスが近づいている。
10月3日発表の日銀短観は「大企業製造業の景気判断は3期ぶりに改善見通し」(NHKが予測集計)。半導体・部品不足が徐々に解消、コロナ制限の緩和、円安効果などが背景と見られる。日本の独自視点を何処まで反映できるかが焦点となろう。

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本資料、一般社団法人FLSG(以下当会といいます。)が投資家の皆様に情報提供を行う目的で作成したものであり、投資の勧誘を目的に作成されたものではありません。本資料は法令に基づく開示書類ではありません。本資料の作成にあたり、当会は情報の正確性等について最新の注意を払っておりますが、その正確性、完全性を保証するもではありません。本資料に記載した当会の見通し、予測、意見等(以下、見通し等)は、本資料の作成日現在のものであり、今後予告なしに変更されることがあります。また、本資料に記載した当社の見通し等、将来の景気や株価等の動きを保証するもではありません。

■レポート著者 プロフィール
氏名:太田光則
早稲田大学卒業後、ジュネーブ大学経済社会学部にてマクロ経済を専攻。
帰国後、和光証券(現みずほ証券)国際部入社。
スイス(ジュネーブ、チューリッヒ)、ロンドン、バーレーンにて一貫して海外の 機関投資家を担当。
現在、通信制大 学にて「個人の資産運 用」についての非常勤講師を務める。
証券経済学会会員。

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