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Monthly Report

Monthly Report 2022年2月号

『米金融政策の変更で2022年がスタート』

1月26日の米FOMC (連邦公開市場委員会)でテーパリング(資産購入縮小)を3月初めに終了し、3月中旬の会合で利上げを開始し、その後のQT(資産縮小)の原則的な考え方を公表。パウエルFRB(連邦準備理事会)議長は記者会見で、さらに「資産縮小は利上げ開始よりも後であるが、前回の資産縮小よりもはるかに大規模」であることをはっきりと説明したのだ。(2月1日 文責太田)

目 次
1、主要国の昨年秋からの株価調整

2、過去3回のFOMC で「金融緩和終了」を宣言

3、1月の株価下落要因

4、過去の米引き締め時はどうだったか

5、株価の乱高下と市場のセンチメント

6、金融当局はある程度の景気後退は容認?

7、極端な引き締めによる悲惨な2つの例

8、日銀の異次元緩和は「不変」

主要国の昨年秋からの株価調整

このところ、主要国の「株価調整」が進んでいる。「大暴落だ」とか「バブル崩壊」との声も聞こえるが、別に今のところ「暴落」ではないだろう。日本の主要な株価指数では、終値ベースで日経平均株価は昨年9月の最高値から1月末まで約12%、TOPIX(東証株価指数)では同じく11%の調整だ。米株で見れば、NYダウが年初近くの最高値から1月末までわずか5%、S&P500種指数で6%の下落にすぎない。ナスダック総合指数は下落率が大きいが、それでも昨年11月の高値から見て、1月末までに11%の調整にとどまっている。  
しかし、ナスダックは「12%の法則」(12%下がると20%下がる確率が高く、20%下がるとその相場は終わりを意味し、弱気相場に入る)があるが、1月に一時12%以上下がったため、ターニングポイントをついに下回り、20%下がる確率が高くなってきた。
もちろん、日本株では東証マザーズ指数はどうかだが、主要な株価指数で2割にも満たない下落は、今のところ過去にも頻繁にあった「普通の株価調整」だ。ちなみにマザーズ指数の昨年高値は2月16日の1340で、現在はほぼ半値近くに沈んでいる。
そもそも、コロナバブル、すなわち資産価格が上昇した起点は、2020年3月の臨時FOMCで、米国は利下げと7000憶ドルの保有資産拡大に踏み切ったところにある。同年3月は3回の臨時FOMCを開催し、コロナで落ち込んだ景気対策を実行した。この結果、FRBの保有資産残高は今年1月の初めで8.76兆ドル、コロナ前の19年末は4.17兆ドルだったから、2年間で2倍に膨らんだことになる。

過去3回のFOMC で「金融緩和終了」を宣言

1月26日にはFOMCの結果が発表された。そもそも、ここまでの米株下落の始まりは2021年9月。中国不動産バブル崩壊、恒大集団の危機がきっかけだった。また9月のFOMCでは、テーパリング(資産購入の縮小)の開始時期を2021年11月に繰り上げ、さらに利上げ開始が2022年半ばまで前倒しされる可能性を示唆していた。
昨年秋から数回のFOMCをもう一度振り返ると、昨年11月に資産購入の段階的縮小(テーパリング)を開始、12月は早くもそのペースを前倒しするとした。今回1月は12月時点に想定していたよりも利上げ開始を前倒しすると決めた。タカ派の方向に総崩れしているようにも見える。昨年11月から今回1月に至るまで急速に(そう思うのだが)タカ派に転じたFRB(連邦準備制度委員会)が、マーケット心理を混乱させて、米株価の下落を引き起こしているのだろう。しかし、過去のFOMCを振り返ると、昨年秋から過去3回のFOMC で「金融緩和の終了」を宣言していたのである。

1月の株価下落要因

繰り返すことになるが、1月になって世界の株式相場が急変した最大の要因は、1月5日に公表された12月FOMC(米連邦公開市場委員会)の議事要旨が、想定以上に「タカ派色」を強めていたためである。その議事録の骨子は、1)「最大雇用の達成」は近く、2)「物価への警戒感は一段と深刻」で、3)利上げは従来の想定よりも早期」の可能性を示唆した内容だった。
しかし、12月FOMCで「テーパリング(資産購入の段階的縮小)の加速」が決定されたことから、この程度の内容ならばマーケットは織り込んでいたはずである。投資家にショックを与えたのは、利上げ後の早期にバランスシートの圧縮に着手、つまりQT(量的引き締め策)のピッチは前回の正常化局面よりも迅速との文言が盛り込まれていたためだ。
そもそも0.25%%程度の段階的な利上げであれば、株式を初めとするリスク資産への影響は極めて限定的なはずだ。しかし、QTの早期発動かつ迅速なペースでの執行となると、株式への影響が甚大になるリスクを内包していると判断するのは当然だ。

過去の米引き締め時はどうだったか

直近の米利上げ局面は、2015年12月─2018年12月の間に合計9回の利上げだったが、QT、いわゆる量的引き締めに踏み切ったのは2017年10月からであった。1回目の利上げから2年近い猶予期間を経ての実施である。この政策プロセスでは、利上げと株高の共存を実現し、結局金融政策のノーマル化を成功させたのだが、その当事者がイエレン元FRB議長(現財務長官)であり、継承したのが現パウエル議長であった。
米国は2017年10月からQTを発動した。それ以降の株式相場を見ると、株価の振幅が大きくなっている。NYダウは、翌年1月高値2万6,616ドルから同年4月安値2万3,344ドルまで12.3%下落。その後しばらくして低迷相場が続いた。
その年10月には高値2万6,951ドルまで上昇に転じたものの、その後は鋭角的な下げで同年12月安値2万1,712ドルまで19.4%の調整を余儀なくされたのだ。結局この年のすべての資産価格はマイナスで終わった。
今回の緩和政策で資産購入を続けた結果、FRBのバランスシートは現在約9兆ドルという前代未聞の高水準に達している。この膨大なバランスシートの圧縮を「早期かつ迅速なペース」で実施すれば、前回引き締め時ト同様に株式市場への厳しい影響は避けられないと思われる。今回2期目を迎えようとしているパウエル議長率いるFRBの「命題は」、昨年までとは真逆の「高物価の抑制」である。この命題達成に向けて突き進み、今度は物価以外のファクター、例えばマーケット動向を軽視することも想定しおかなければならない。


株価の乱高下と市場のセンチメント

NYダウは史上最高値を2021年11月に更新した。しかし、実際にテーパリング(資産購入縮小)を11月から開始すると、株価は同月末にかけて9月の水準まで大きく下落した。そして、2021年12月には大乱高下が始まった。1日の中でも乱高下し、値幅が増大した。12月前半は急回復と急落を繰り返しながら、同月半ばから急回復し、ダウは年が明けて2022年1月4日に史上最高値を更新した。しかし、ダウはそこから急落を開始した。1月24日は昨年11月末の水準を割り込み、直近の最安値を更新した。それよりも重要なことは、1日の上下の値幅が1000ドル近いことで、しかもそれが連日続いたことである。
乱高下はまさに投資家たちの右往左往であり、どちらに動いていいかわからず、あるいはわかっているが、パニックで過敏に些細(ささい)なニュースに過剰反応し、七転八倒しているさまである。株価の乱高下は投資家のセンチメント(心理)を表している。小さなニュースに一喜一憂し、しかもその日の中で大きく動くのは、ファンダメンタルズや中央銀行、政府の政策に関するニュース自体にびくついているというよりは、ほかの人たちがどう動くのかにビクビクしていることを示している。
「みんなが売っている、やばい自分も売らなきゃ」「みんなは買いに転じた、しまった売ってしまった、買い戻せ」などといった具合で乱高下が起こる。1月の米株式相場はまさにこうした状態だったのだ。

金融当局はある程度の景気後退は容認?

2017年10月からの前回のバランスシート縮小政策はかなり慎重に行われた。だが、今後はインフレ沈静化のツールとして同政策が利用されるので、前回の引き締め時よりも早いペースでの量的引き締め政策が実現する可能性が高い。これまでの、FRBの引き締め政策転換があっても依然として上昇が限定的なままの米国の長期金利には、大きく上昇する余地がある、と筆者は考えている。
FRBがインフレと経済成長のバランスをとって金融政策を行うのだから、今後の引き締め政策によってインフレと経済が安定成長に戻ることに成功する可能性はある。ただ、今起きているインフレ上昇は、世界的なサプライチェーン混乱などの供給側の要因によって起きている側面が大きい。2021年に起きた供給側に起因するインフレ上昇に対して、総需要に影響を及ぼす金融政策による「程よい引き締め」は実現し難いだろう。
FRBによる引き締めは、インフレ抑制と同時に経済成長を抑制する方向に作用する可能性が高い。このため、経済成長の下振れのコストを容認しながら、インフレ沈静化を最重視するFRBの政策姿勢は、簡単には変わらないと思われる。
米国の株式市場における当面の注目は、昨年10~12月期の企業業績発表だ。同期までは底堅い経済成長が続いたので、企業決算はさほど悪くない。この材料で、短期的には決算を受け株価はいったん上昇するかもしれない。だが過去の業績を確認する意味合いが大きい企業決算や、過去の経済状況が影響する企業の売り上げ見通しは、同国株市場の持続的な上昇要因にならないかもしれない。
2022年の経済成長率低下と企業業績減速が始まり、コロナ感染拡大がインフレ要因となるなかでFRBの引き締め政策が強まっている。このため、スタグフレーション(インフレと景気後退が同時にくる経済現象)、または単なる景気後退のいずれかが起こると予想される。しかし、FRBはインフレを抑えるため、また資産縮小のためには、ある程度の景気後退と資産価格の下落を容認していくと思われる。前回の引き締め期間と株価の調整を見ると、当面、米国の株市場は期待できないのではないだろうか。

極端な引き締めによる悲惨な2つの例

過去の歴史では、中央銀行が超緩和策から極端な引き締め策に急転換した場合、株式相場のみならず、実体経済も大きなダメージを被っている。日米で2つの例を見てみる。
第1には、グリーンスパン元FRB議長の「ITバブルつぶし」である。グリーンスパン元議長は1999年6月─2000年5月の短期間に合計6回の利上げ(4.75%から6.50%)を実施した。
この結果、ナスダックは2000年高値5132ポイントから2002年安値1108ポイントまで約5分の1になる大暴落となった。当然、このITバブル崩壊は実体経済にも大きな影響を及ぼし、米経済は2001年に向けて後退色を強めた。
第2には、日本の「バブル崩壊」がある。三重野康・元日銀総裁による「平成バブルつぶし」である。前任の澄田智元日銀総裁は1986年1月から1987年2月までに5回連続利下げ(公定歩合は5.0%から2.5%)を実施した。その結果、膨大な余剰マネーを生み、土地と株式の壮大なバブルにつながって行った。日経平均は1989年12月大納会で38,915円の大天井を形成した。これに対して後任の三重野元総裁が1回で1.0%の大幅利上げを含め、公定歩合を1990年8月までに6.0%と急速に引き締めた。
結局、超緩和策から急速な引き締め策への転換によって「平成バブル」は崩壊し、日本経済もまた「失われた〇〇年」と呼ばれる長い停滞と不良債権問題に苦しむことになった。

日銀の異次元緩和は「不変」

株式市場にとって、中央銀行の政策変更は最も重要なことである。FRBの政策変更に対し、日本銀行はどうか。マネタリーベース(日銀が直接的に供給するお金)は、2021年12月の平均残高で前年比8.3%増の657兆831億円と、高水準を維持している。金融機関向けの大規模な「コロナオペ」が導入された2020年の反動で、伸び率は2020年6月以来の低水準となっているものの、結局12月末の残高を見ると、670兆0674億円と過去最高を更新している。
また、市中に出回っている資金量であるマネーストック(M3)も、同12月の月中平均残高は前年同月比3.4%増の1531兆5000億円と、過去最高を更新した。このように、異次元緩和状態は変わっていない。
ただ最近では、マネタリーベースこそ月末残高は過去最高を記録しているものの、月中平残を見ると2021年10月が660兆円、11月が659兆円、12月が657兆円となっていることから、「日銀の資金供給量がこのまま減っていくのではないか」とみる向きもある。
減っていくとしても前年同月比で見てマイナスになるようなことは当分ないと推察しているが、今年4月以降には「ついにそのときが来る」とみる向きがある。前年同月比でマイナスになったことは、黒田東彦総裁が就任して「異次元緩和」を始めた2013年4月以降はない。したがって、もしそうなれば、明らかな政策変更と認識される。
そんな中で開かれた1月18日の日銀金融政策決定会合は、数々の不安を打ち消すものだった。とくに会合後の黒田総裁の会見で、総裁は「利上げをはじめ、現在の大規模な金融緩和を変更することはまったく考えておらず、そうした議論もしていない」として、巷に流れている数々の「可能性」についても明確に否定した。
しかし現在の東京市場は、この黒田総裁の配慮をあざ笑うかのように、米株追随の下落相場となっている。緩和縮小→利上げへと進むFRBに対して警戒するのは当然だが、大規模金融緩和を継続している日銀をまったく無視して売られている日本株は間違っているのではないか。相場はよく間違えるものだが、一方で長期間にわたって間違いが続くこともない。

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本資料、一般社団法人FLSG(以下当会といいます。)が投資家の皆様に情報提供を行う目的で作成したものであり、投資の勧誘を目的に作成されたものではありません。本資料は法令に基づく開示書類ではありません。本資料の作成にあたり、当会は情報の正確性等について最新の注意を払っておりますが、その正確性、完全性を保証するもではありません。本資料に記載した当会の見通し、予測、意見等(以下、見通し等)は、本資料の作成日現在のものであり、今後予告なしに変更されることがあります。また、本資料に記載した当社の見通し等、将来の景気や株価等の動きを保証するもではありません。

■レポート著者 プロフィール
氏名:太田光則
早稲田大学卒業後、ジュネーブ大学経済社会学部にてマクロ経済を専攻。
帰国後、和光証券(現みずほ証券)国際部入社。
スイス(ジュネーブ、チューリッヒ)、ロンドン、バーレーンにて一貫して海外の 機関投資家を担当。
現在、通信制大 学にて「個人の資産運 用」についての非常勤講師を務める。
証券経済学会会員。

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