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Monthly Report

Monthly Report 2022年1月号

2022年「壬寅(みずのえとら)」リスク要因洗い出し

古くから、市場関係者にとって毎年、新しい年の干支(えと)が気になる。未知の世界がどうなるか知りたいのだ。ちなみに昨年1月号では21年の丑年相場は「天井を付ける」と見ており、この年の高値が天井になるか、22年を見ていきたい。(12月28日 文責太田)

目 次
1、22年の干支は「壬寅(みずのえとら)」

2、22年の株式市場は大揺れの展開に?

3、寅年の日経平均は過去「1勝5敗」十二支中最下位

4、22年の大きなリスク

5、米金融政策リスク

6、「金融市場が伝える真実」とは何か?

7、中国リスクは日本経済にプラスのケースも

8、岸田リスクはかなり深刻

9、22年は日本株優位との声、海外勢で高まる

22年の干支は「壬寅(みずのえとら)」

2022年は寅年だが、十二支(じゅうにし)の1つで、現代では「干支(えと)」というと、皆が知っている十二支だけを指すことも多い。だが「来年の干支は」と言われれば、「壬寅(みずのえとら)」と答えるのが正しい。西暦の末尾が2の年を「壬」という。本来の干支(えと)は、「十干」(じっかん)と「十二支」を合わせて「十干十二支(じっかんじゅうにし)」で表される。十干と十二支の組み合わせは、10(十干)と12(十二支)の最小公倍数が60、つまり60年に一度となる。

22年の株式市場は大揺れの展開に?

2022年はこの壬に寅が組み合わされることになる。この2つの文字が意味することは、今までの常識が覆され、時代にあった新しい常識が摸索され始める1年になるといわれている。つまり株式市場は、市場参加者の迷いや葛藤が入り乱れ、ボラティリティ(変動率)の高い大揺れの展開になると予想され、十分に警戒すべきだ。
参考までに、2022年の60年前(1962年、昭和37年)何があったか、を見てみる。日経平均株価は、1月の初値1425円、2月14日に年高値1590円まで上昇したものの、10月のキューバ危機により10月29日には安値1216円まで急落、その後年末には1420円まで値を戻した。結局、年間騰落率は▲0.8%だった。1962年の壬寅の相場はかなり大きな変動を伴い、最後はほぼ年初の株価まで戻していることがわかる。

寅年の日経平均は過去「1勝5敗」十二支中最下位

それでは、1950年以降の十二支の寅年の日経平均はどうだったか。これも往来相場が少なくないが、圧倒的に負け越している。平均年間騰落率が+1.8%と十二支中10位。過去6回の勝敗は、1勝5敗で十二支中12位と最下位。上昇年はウォーターフロント相場と呼ばれた1986年のみだ。この年の騰落率は∔42.6%と平均騰落率をこの年だけで引き上げている。
では、末尾が2の年である壬の年の相場はどうだろうか。壬年は、実は平均騰落率では十干中1位なのだが、勝率でみると4勝3敗と6位で結果は今ひとつだ(上昇年は、1952年・1972年・1982年・2012年。下落年は、1962年・1992年・2002年)。
壬の年、寅年、壬寅の年、いずれをとってそれほど強気相場にはなれない。戦争(50年の朝鮮戦争、62年のキューバ危機)、国のトップ辞任(74年ニクソン辞任、98年橋本首相退陣)、銀行の国有化(98年長期信用銀行の国有化)などがきっかけとなっていることが多い。また、年後半で10月のボトムが多いことも特筆される。2022年の寅年も、こうした出来事があると、下落から年末にかけ戻す年になるかもしれない。

22年の大きなリスク

投資をするうえで常に「リスク」は付きまとう。2022年壬寅(みずのえとら)年も大きなリスクを内包している。ここでは特に4つのリスクを取り上げてみた。ただしこのリスクも現時点で想定されるリスクであって、我々がまだ知らないリスクもあるかもしれない。
想定できる範囲でのリスクとして、まず、①、オミクロン株リスク、②、パウエルFRB議長リスク、③、中国リスク、そして④は岸田リスクと考えている。
これらのリスクの中で、相対的にリスク度が低いと思われるのは, ①のオミクロン株リスク、すなわちオミクロン株の感染拡大で経済が急減速するリスクだ。しかし、まだ確定的ではないものの、「感染力は強いが重症化リスクは小さい」と言われており、オミクロン株に対して、再び飲食業を中心に営業自粛要請など過剰な行動規制が行われて、経済活動が抑制されるのではと心配している。ワクチン接種が進み、飲み薬も遠からず承認されるという状況下で、そろそろコロナに対する考え方を変えてもいいのではないか。楽観的かもしれないが、今年はインフルエンザと同じ程度の対応に変化していくと考え、一律の時短要請・休業要請のような政策は避けたいものだ。
どういうわけか、メディアはほとんど報道していないが、ノーベル賞を受賞した山中教授が、日本人は欧米人に比べ新型コロナの重症者や死者数が少ない「要因」をファクターXとし、これに関し、理化学研究所が日本人の6割が持つ「A24」という白血球の免疫細胞が新型コロナに反応することを見つけた。日本は特殊な免疫細胞のおかげで他の国より早めに回復するという期待もある。
しかし、岸田文雄首相は12月23日に都内で行われた会合のあいさつで、オミクロン株に関して「やりすぎのほうがまし」と発言し、強めの対策の可能性を示唆した。欧米先進国の多くで経済活動の水準がコロナ前に戻っている中、わが国の経済活動の戻りは遅れている。①のオミクロンリスクとは、政府主導の「過剰自粛」が経済活動を停滞させ他の先進国に後れを取ることだ。ちなみにこれも後述する④の岸田リスクに該当するのかもしれない。


米金融政策リスク

②のパウエル議長リスクとは、米金融政策の引き締めのことだ。米国時間12月15日、FRB(米連邦準備制度理事会)は、FOMC(アメリカ連邦公開市場委員会)声明文を発表した。米国国債などの買い入れ額の減少、いわゆるテーパリングを加速することを決定した。そして、FOMCメンバーの多数派が、2022年度の短期金利が0.75%程度上昇すると見込んでいる、ということが示された。
筆者が驚いたことは、今回のFOMC直後、米株式市場は大幅に上昇したことだ(NYダウ383ドル高)。これはいったい何を意味しているのか。報道では、「株式市場は懸案だったFOMCを無事通過したため安心感が出て、買いが集まっている」という解釈になっている。市場でよく言う「リスクオンに傾いた」ということらしい。これを受けて、日本株も大幅に上昇。日経平均株価は606円も上昇した。同時に世界中の株価も上昇した。しかし、今回のFOMCの決定は、そんなに株式市場にポジティブなものだったのだろうか。
FOMCの内容は、まず、米国債、MBS(不動産担保証券)の買い入れ額の減少額(テーパリング)を2倍に増加(加速、6月終了予定が3月に前倒し)。次に、これまで現在の同国経済のインフレは一時的とパウエル議長も説明していたが、今回は「一時的」という文言はFOMC声明文から削除。パウエル議長も一時的という説明を記者会見でやめた。さらに、利上げは、以前は「2022年はなく、2023年から」と思われていた。だが前回のFOMCから2022年に0.25%に1回利上げの見通しになっていたが、今回は一気に0.75%(0.25%の利上げなら2022年は3回)に変更になった。
ある程度金融知識のある人に「中央銀行がこのような政策決定と発表を行った、株式市場はどう反応したと思うか」と問えば、100人が100人「株価は暴落した」と回答するだろう。しかし、実際の株式市場の動きを知って、この人達は納得より愕然とするだろう。

「金融市場が伝える真実」とは何か?

それは「金融市場が伝える情報とは、真実ではない」ということを知っておかなければならない。では間違った情報なのか?そうではない。実は市場は常に真実を伝えている。しかし、それは、実体経済の状態に関する真実ではなく、投資家のセンチメント、気持ち、意図をあらわにしている、つまり、投資家の欲望の真実を伝えているのである。現実世界の事実、真実は調査、分析すればわかる。しかし、投資家という人間の心のうちを、市場は、取引という彼らの行動を通じて、われわれに伝えてくれる、これ以上ない貴重な真実を伝えてくれる場所なのである。
今回の一時的な株式市場の上昇が、投資家たちのショックを表している、と思った方がいい。株価が上昇したのは、現実を受け入れたくない投資家が一時的に目をつぶったことを反映しているのである。今後のFRBのスタンスが利上げとわかった以上、受け入れる準備にすぐに取り掛かる。それが、2022年なのかもしれない。
②のパウエルリ議長リスクは、FRB(連邦準備制度理事会)が金融緩和の撤収とインフレ対策としての利上げに、かつてよりもずいぶん「前向き」であるという事実のことを言う。
コロナ禍の前から米国の株高は金融緩和政策に強く後押しされたものだったので、金融緩和の後退、まして利上げとなると、その影響が相当に心配される。率直に言って、筆者はオミクロン株よりもパウエル議長リスクのほうが数段怖い。
ただし、経験から言えば、利上げが始まってすぐに株価が下落することは少なく、前回の2018年利上げ時には3回目から株価は下落した。つまり利上げが進むたびに投資家は「そろそろ暴落か」という恐怖を味わい、そしてその恐怖が実現するという展開になる。
投資家としては「株価が2割下落して、回復に1年くらいかかる」というくらいをメドに覚悟を決めて、「下がることはあってもいずれ戻るだろう」と達観するのがおおむね上策だ。まあ、資産を根こそぎ売ることはお勧めしない。

中国リスクは日本経済にプラスのケースも

3つ目の「中国リスク」はどうだろうか。2022年2月に北京で行われる冬期オリンピックが終わったあとの大陸中国と台湾の関係が心配だ。ロシアとウクライナの軍事的衝突と、台湾海峡の軍事衝突が同時に起こった場合に、米国が両方にうまく対処できるようには思えない。2021年は、米国の内外両面における劣化が目についた1年だった。特にバイデン大統領に政権が交代したあとのアフガン撤退における大失敗は、米国が今や軍事的にも盤石ではないことを世界に見せつけた。「台湾有事」が起こった場合、日本は具体的に何ができるかは問題だが、結局は「非難」と「経済制裁」くらいしかできないだろう。
一般的に株式市場では「近くの戦争は売り、遠くの戦争は買い」と言われる。緊迫した事態が起こった場合、株価はいったん大きく下がるだろう。
しかし、米中関係が膠着状態に陥り米中の分断が進むと、現在中国が担っているグローバルなサプライチェーンに対し、その一部を日本が肩代わりするような事態の進展もありうる。新しい冷戦が冷戦にとどまるかぎり、日本の経済にとっては悪い話ばかりではない。
日本の高度成長は、米ソ冷戦下でもたらされたとの見方がある。日本のデフレ要因とも指摘されてきた中国経済躍進が止まり、第二次冷戦の構図が、日本の反転成長・デフレ脱却要因になるか、どうか注目される。

岸田リスクはかなり深刻

一方、最後に挙げる「岸田リスク」は、2022年の悪材料というだけではなく、在任中は場合によっては数年にわたって日本経済に悪影響を与える可能性がある。このリスクとは、まず、夏の参議院選挙で岸田総裁の率いる自民党が大敗しなければ、政権の基盤が固まるとする。すると、岸田氏は自分のカラーを出しやすくなる。
緊縮財政的なバイアスが感じられる岸田氏は安倍晋三元首相の経済政策を変えたがっていることは、「新しい資本主義」という、上滑りした中身のないキャッチフレーズに色濃く表れている。
さらに2023年3月には、日本銀行の正副総裁3人の任期が期限を迎える。2022年の年末頃には日銀人事の下馬評とともに、金融政策の転換が話題になる可能性がある。日銀の人事は、それ自体が数年先の政策にまで影響する、強力な政策的メッセージだ。こうした重要な意思決定が岸田政権下で行われるとすると、これは株式市場にとって相当に大きな心配の種である。いわゆるアベノミクスの中核にあった金融緩和政策を岸田政権が変更しようとすることも日銀総裁人事で推し量ることが可能だ。つまり、数年にわたったデフレ脱却への努力が無駄になる可能性がある。
これらの4つのリスクのいずれが実現した場合でも、株価は事態を織り込みに行くだろうから投資家は自分にとって適切な大きさのリスク資産を抱えて、じっとしていることが正解になりやすいはずだ。われわれが乗っている飛行機は、2022年は乱気流のゾーンに入るかもしれないのだが、乗客にできることはシートベルトを締めて乱気流をやり過ごす程度のことにすぎない。2022年の壬と寅の2つの文字が意味することは、『雪解けの海を渡る虎』だそうだ。つまり、2022年は、今までの常識が覆され、時代にあった新しい常識が摸索され始める1年になるといわれている。

22年は日本株優位との声、海外勢で高まる

12月17日付けブルームバーグによると、海外投資家の間で、2022年はグローバル株式市場の中で日本株が優位になるという見方が意外に多いと伝えている。新型コロナウイルス禍から世界が一段と正常化へ向かう中、日本の成長加速や企業業績の改善を追い風にした株高期待が海外勢から強まっている。
スイスのUBSグループや米モルガン・スタンレー、米ゴールドマン・サックス・グループなどは22年のグローバル株市場の主要指数で、日本のパフォーマンスが米国を上回るだけでなく、好成績が見込まれる欧州に並ぶか優位になると想定している。
UBSは来年の世界経済成長は長期平均を上回る水準を維持すると予想し、経済再開の進展、為替の円安も加わって日本の企業業績は2022年後半には再加速し株価は力強い回復を見せるはずと予想している。22年のTOPIXは2250(12月27日現在1986)、したがって、現在のNT 倍率14.45倍から日経平均は32500円に計算上なる。
OECD(経済協力開発機構)が12月1日に発表した経済予測によると、22年の世界経済は4.5%成長の見込み。米国や中国、ユーロ圏は今年に比べて伸び率が低下、日本は加速する。米国、ユーロ圏ともに21年の成長率が高く、22年には減速しているが、日本は21年1.8%成長、22年は3.4%成長と成長が加速している。JPモルガン証券は、コロナ禍からの正常化や円安が従来回復の遅れていた設備投資を押し上げると予想。2022年の日本経済は潜在成長率超えの成長を続ける発端になるだろうとの見解を示す。
大和証券の集計によれば、日本の主要上場企業(金融除く)の21度経常利益は前期比35%増と、新型コロナ前の18年度を上回り過去最高益を更新する見込み。続く22年度も7%増と2年連続で最高益と予想している。業績拡大が有力視されながらも、日本株はバリュエーション(PERなど)の観点から米国や欧州に比べ出遅れ感がある。ブルームバーグが集計したTOPIXの今年末の株価収益率(PER)は14.6倍なのに対し、22年末は13.4倍へ低下する見込み(利益の増加を意味する)。米S&P500(それぞれ22.4倍、20.8倍)、ストックス欧州600指数(同16.3倍、15.4倍)を下回る。
日本では大型経済対策発動が決まった。国内景況感の好転が今後鮮明化して22年には日本のPERが数ポイント切り上がれば、日経平均の上昇余地は、上述の32500円以上、35000円前後に上振れも予想される。
モルガンSは、足元の経済状況は過去の「サイクル中期」と似ており、特に欧州株と日本株は拡大期が株価上昇の追い風となるとして、いずれも判断を「オーバーウエート」に設定。半面、バリュエーション(PERのこと)がコロナ以前を大きく上回り、大きな実質金利上昇の可能性に直面する米国株は「アンダーウエート」とした。

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本資料、一般社団法人FLSG(以下当会といいます。)が投資家の皆様に情報提供を行う目的で作成したものであり、投資の勧誘を目的に作成されたものではありません。本資料は法令に基づく開示書類ではありません。本資料の作成にあたり、当会は情報の正確性等について最新の注意を払っておりますが、その正確性、完全性を保証するもではありません。本資料に記載した当会の見通し、予測、意見等(以下、見通し等)は、本資料の作成日現在のものであり、今後予告なしに変更されることがあります。また、本資料に記載した当社の見通し等、将来の景気や株価等の動きを保証するもではありません。

■レポート著者 プロフィール
氏名:太田光則
早稲田大学卒業後、ジュネーブ大学経済社会学部にてマクロ経済を専攻。
帰国後、和光証券(現みずほ証券)国際部入社。
スイス(ジュネーブ、チューリッヒ)、ロンドン、バーレーンにて一貫して海外の機関投資家を担当。
現在、通信制大学にて「個人の資産運用」についての非常勤講師を務める。
証券経済学会会員。

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