Instagram  tiktok

Monthly Report

Monthly Report 2021年3月号

日経平均3万円の持続性は

2月15日、日経平均は3万円の大台に乗せた。
1990年8月3日以来の大台回復だが、月末の26日日経平均は1202円安とあっさり3万円を割った。
大台割れは米金利の急速な上昇によるもので、果たして今後株高は続くのだろうか
(3月1日 文責太田)

目 次
1、米長期金利上昇で株高に変調論
2、40年の過度の円高は米中敵対で転換
3、米長期金利上昇に米FRBは妥当と見ている
4、米長期金利上昇は株式相場の自動調整役
5、30年前の3万円との比較
6、今の日本株高は世界の株高に連れ高
7、米大規模な財政出動が意味するもの
8、日経平均4万円はポストコロナへの対応次第か
9、目先の株価の分岐点は夏ころか
10、株価はまだ見ぬ将来の収益を予想して動く

米長期金利上昇で株高に変調論

日経平均が3万円に乗せたことで、市場関係者の見通しは切り上がっている。一方で、米長期金利の急上昇を受けて日米の株式市場は変動率が高まり警戒する声も聞かれる。

2月末、米長期金利の上昇をきっかけに日米の株価が急落した。市場の一部では株高基調の「変調」観測が浮上しているが、米欧日の中央銀行による超金融緩和政策がしばらく続くと想定され、今回のような長期金利の上昇は株価の「自動調整機能」の役割を果たし、株高の地合いは継続されると考える。

40年の過度の円高は米中敵対で転換

日本のデフレの最大原因は、40年以上前から続いた日米貿易摩擦に起因した、米国の日本叩きによってもたらされた過度の円高である。
超円高によって価格競争力が破壊され、ドルベースでみて超割高になった円建て賃金の、大幅な引き下げが引き起こされた。
また円高で日本の産業集積の海外への移転が急進展した。いずれも国内物価が上がらないデフレ要因になる。

しかし米中対決という現在の環境の下で、この円高デフレの悪循環が決定的に変化すると考える。
日本経済の弱体化の鍵は為替、つまり円高。
一般的に関税を主とする貿易協定では数%の価格差をもたらすに過ぎないが、為替は容易に価格差を1~2割、時には3割改変することができる。
70年代中ごろ欧州では、石油ショックの後、燃費のいい日本の中小型車が世界を席捲、米国の車が売れなくなり日米貿易摩擦が起こった。
貿易摩擦の結果、基軸通貨ドルに対し超円高が引き起されたのだ。
それまで、日本国内に圧倒的な存在であったハイテク生産が90年代以降、韓国、台湾、中国へのシフトを促進したのだ。

米長期金利上昇に米FRBは妥当と見ている

2月25日のNY市場では、インフレへの警戒感などから米10年物国債利回りが一時、1.614%まで上昇。1.48%程度とみられるS&P500 種株価指数の平均配当利回りを上回り、株式市場の魅力が低下したとの受け止め方が広がった。
NYダウはこの日559ドル下落、ナスダックも3.52%安となった。
続く26日の東京市場では、日経平均は1202円安。日本の長期金利も一時、日銀のマイナス金利政策導入後、最も高い水準まで上昇した。
東京市場でも、主要国中央銀行の超金融緩和策による流動性供給を背景にした株高基調が、転換点を迎えたのではないかとの見方が出ている。

しかし、その見方は早計の可能性がある。まず、米FRB(連邦準備理事会)の幹部からは、長期金利の上昇をけん制する発言が出ていないからだ。
セントルイス地区連銀のブラード総裁は、米10年債利回りの上昇は「妥当な」反応と指摘。 カンザスシティー地区連銀のジョージ総裁は「(長期金利の上昇は)回復の強さに対する楽観的な見方を反映している公算が大きく、成長見通し改善に向けた勇気づけられる兆候と受け止められる」とし、FRBが金利上昇に対応する必要はないと述べた。

また、パウエルFRB議長は23日の米上院銀行委での証言で「完全雇用が実現し、インフレ率が2%に上昇し、当面2%を若干上回る水準で推移する軌道に乗るまで、金利をゼロ近辺に維持する」「完全な回復までまだ長い道のりがある」と表明。
現行の超金融緩和策が長期化する見通しをあらためて強調した。

FRBから見れば、住宅価格の急上昇など典型的な資産価格のバブル的現象は何としても抑え込みたいが、雇用の改善までは忍耐強く緩和を継続する必要がある。
「二律背反」的にも見える道を進むうえで、今回のような長期金利の上昇は、資産バブルを抑え込む働きだけでなく、市場が「テーパリング」(量的緩和策による金融資産の買い入れ額を順次減らしていくこと)の思惑を自ら生み出すことで、FRBが何もしなくても株価の調整効果を誘発、結果として息の長い株高を生み出すと考えているのではないだろうか。

そのせいか、株価が大荒れした2月25日と26日、日米のVIX指数(ボラティリティインデックス、別名恐怖指数)は20台後半で推移し(米恐怖指数25日が28.89、26日は27.95、日本の日経恐怖指数は同23.74、同28.30)、市場の大幅な緊張を示す水準である70台からはかなり離れた距離にある。VIX指数は株価大幅下落が今後も続くとは見ていないようだ。

米長期金利上昇は株式相場の自動調整役

米市場では長期金利の上昇によって、今後市場がFRBによる米国債購入の減額(テーパリング)が早まると警戒し、今回のように株価下落につながれば、それは適度な相場調整とも言え、超金融緩和の副作用である「過熱感」をしばしば抑制する「自動調節機能」の役割を演じ、そうなれば上昇相場の長期化と解釈できるのではないか。

ただ、東京市場では、米長期金利の上昇による反射的な効果が、やや過大に受け取られた可能性もある。
米長期金利の上昇に対する反応として、株価だけでなく国内の10年物長期国債利回りが、1年前の2月28日にマイナス0.141%から上げに転じ今年の2月26日にはプラス0.16%まで上昇しており、日銀のマイナス金利政策の導入後で最も高い水準まで上昇した。
一方で、日銀が3月の金融政策決定会合で公表する「点検」に対しては、米金利高の影響が何らかの形で波及する可能性もありそうだ。

日銀は昨年12月に表明した金融政策点検の結果を3月19日に公表する。
3月会合で公表する金融政策の点検では、長期金利の目標の短期化に動くかどうか注目が集まる。
したがって、米金利上昇に端を発した日銀の金融政策を巡って当日まで様々な憶測を生み、株価への影響もあるかもしれない。

今回の米長期金利上昇を発端にした日米株の下落は、金融相場の「弱点」をさらけ出したように見えるが、日米欧中銀の緩和政策が長期化するという経験のない状況下では、以前に見たことがないようなメカニズムが働き、株高が想定を超えて継続する可能性があることも想定しておきたい。

30年前の3万円との比較

今回の3万円と30年前の日経平均3万円と比較してみる。
30年前とは経済や金融市場の状況は大きく異なる。
ドル/円は当時の1ドル149円から足元では105~106円と大幅な円高が進んでいるが、長期金利は7.31%から0.075%(3万円を付けた2月15日)に大きく低下。
マネーの総量であるマネーストック(M2)が488兆円から1141兆円と大きく増加するなど、世界的な金融緩和と低金利による流動性が現在の株高の原動力となっている。

ただ、経済状況は依然厳しい。名目GDP(国内総生産)は30年間でわずか17%の増加。
人口はわずかな増加にとどまる一方、高齢化比率は12.1%から28.4%に上昇している。
インフレ率は依然マイナスで、デフレ懸念も払しょくされていない。
東証1部の時価総額は、30年前はほぼ名目GDPとほぼ同じだったが、いまは1.3倍(2月26日)にまで時価総額が膨張。
いわゆる「バフェット指数」でみれば割高な水準だ。
「バフェット指数」とは単純に時価総額÷GDPで100を超えると割高、100以下を割安という。
89年11月に140を超えていたが、90年になって下げ、90年7月末に100を割った。
「バフェット指数」から今の株価は割高になる。

今の日本株高は世界の株高に連れ高

今回の日経平均3万円までの日本の株高は世界の株高に引っ張られたものだ。
30年前は、日本はライジングサンと呼ばれ、米国に迫る勢いがあった。
世界の時価総額の上位に日本企業の名前が並んだが、今や見る影もない。
今回の3万円乗せは世界の株価の連れ高にともない、ウエートリバランスで買われているだけだという意見もある。
とはいえ、30年前の水準にようやく戻った日経平均だが、米ダウはその間10倍以上に上昇しており、日経平均にも上昇余地があると感じることもできる。

今後の株価は、EPS(一株利益)と金利で説明できる水準からこの先の上振れは限られており、30年前の割高感からは程遠い。
キャッシュが有り余っているからバリュエーションを度外視して買っている、という状況ではない。
また、日本企業もここまであまりリスクを取らず、リストラに偏っていた、という批判はあるものの、反面で頑健なバランスシートを持っていると評価できる。
今の株高は、先進国のなかでもそれが評価されている面もあろう。
また、物価が上がらず、デフレで企業収益が伸びない、という世界ではなくなってきている。

米大規模な財政出動が意味するもの

というのも、米国は1.9兆ドルのコロナ経済対策とはべつに、大規模なインフラ近代化計画を行うと2月にイエレン財務長官が発表している。
コロナ経済対策だけでも米GDP(国内総生産)の9%に当たる。米国の膨大な財政出動を前にして、先進国では、実質的にMMT(現代貨幣理論)的な政策に向かいつつあるのかもしれないと思うこともある。
MMTとは、米ニューヨーク州立大のステファニー・ケルトン教授らが提唱した考え方で、「自国通貨建てで借金できる国は、過度のインフレ(物価上昇)にならない限り、どれだけ借金が膨れ上がっても問題ない」という考えだ。
その最たる例は日本なのだが。

先進国は大規模な財政出動すれば、もはや、中央銀行の独立性は事実上低下し、インフレをコントロールするのは、金融政策ではなく、財政政策の役目になりつつあるのかもしれない。
この政策が、最終的に持続可能との保証はないが、こうした状況下で、名目ベースでの株価がさらに上昇する絵も描けることになる。

日経平均4万円はポストコロナへの対応次第か

ただし、MMT的なリフレ政策だけで日経平均4万円を目指す、となるかと問われれば疑問だ。
現在の相場は、基本的に世界の株価に連れ高したものだ。
コロナ禍からの景気持ち直しで、グローバルな景気敏感株として見直された、という範囲に留まり、一層の上値を追うには力不足だ。

かつて環境技術先進国だった日本は、この20年間で追いつくことを目指す側の立場になりつつある。
単なる従来の延長線上ではなく、この先、ポストコロナの時代に、ESG(環境・社会・企業統治)やSDGs(持続可能な開発目標)の枠組みに沿いつつ、何か日本がリードできる核が生まれないと4万円を目指すのは厳しいのではないか。

15日発表の10~12月のGDP統計では年率換算で12.7%の成長、とりわけ設備投資は予想以上に強く4.5%増と3期ぶりにプラスとなった。
もし、ポストコロナを見据えて日本企業が資本設備や雇用に積極的に投資し、日本企業の捲土(けんど)重来が見えてくれば、4万円の芽は出てくるかもしれない。

目先の株価の分岐点は夏ころか

足元では米長期金利の上昇で神経質な動きを警戒する声も増えていくだろう。
したがって、しばらく、具体的には4月ころまでは値動きの激しい局面があるかもしれないが、それで本格的な下落トレンドに転換するような波乱はないだろう。
米大統領の就任から100日間は「ハネムーン期間」と呼ばれ、政策実現への期待が保たれる時期にあるからだ。
ハネムーン期間が終わるころ、4月下旬から5月にかけ日本企業の本決算発表が本格化する。
3万円への過程では企業業績の予想以上の回復によってもたらされた面もあるが、コロナで痛手を被ったレジャー関連や外食産業などは、新年度業績見通しでの高い伸びが買い材料になる期待が大きい。
株価の分岐点はその後の夏ころだろう。
夏になれば欧米ではコロナワクチンが一般市民レベル(日本はまだその先だろう)に普及し、経済の正常化が具体的になり、その後に株価が上値を追えるかどうかは、正常化とともに顕在化するリスクを乗り越えられるかどうかだろう。

株価はまだ見ぬ将来の収益を予想して動く

さて、日経平均が3万円に乗せ、月末の米金利急上昇による3万円割れでバブル崩壊と声高に言う市場関係者も多く見かける。
まず、以前にも述べたが、バブルの最中でバブルだと認識できる人はいないのがバブル現象なのである。
したがって、バブル崩壊も一度くらいの大きな下げでバブル崩壊とは認識できない。
ただし、今回の2月15日までの株価上昇も「バブルっぽい」ことは確かだ。
それは実体経済から見た株価が買われ過ぎだったからだ。
そういう見方で株高を批判する専門家もいる。
そういう人達はおそらくリスクを取って投資行動はできないだろう。
つまり絶対もうからないということだ。
株価は常に「まだ見ぬ」将来の収益を見て動く。
したがって将来の収益予想が外れれば、必ず株価は修正されることになる。
多少乱暴な言い方だけど、過去のデータを持ち出して「バブル」というのも無駄な作業でもある。
株価の将来の動きは過去のデータではわからないのだ。
今回、日経平均が1202円安だったことで、ネットなどで「バブル崩壊」など叫ぶ投資家がいたそうだが、本レポートの読者は惑わされないように。筆者はこうした意見をむしろ歓迎している。
なぜか?こうした意見、ネットだけでなく、例えば日経新聞誌上での株価批判で、もし日経平均が下げたとしたら、株価の「自浄修正」能力が発揮されたと考える。
もっと言えば、トレンドフォロー型の投資家(今回は3万円近くで買いに入った投資家)などを振るい落とすことで、次の上昇トレンドが見えてくるのだ。
市場とは案外残酷であることを承知しておくべき。

———————————–

本資料、一般社団法人FLSG(以下当会といいます。)が投資家の皆様に情報提供を行う目的で作成したもであり、投資の勧誘を目的に作成されたもでありません。本資料は法令に基づく開示書類でありません。本資料の作成にあたり、当会は情報の正確性等について最新の注意を払っておりますが、その正確性、完全性を保証するもでありません。本資料に記載した当会の見通し、予測、意見等(以下、見通し等)は、本資料の作成日現在のものであり、今後予告なしに変更されることがあります。また、本資料に記載した当社の見通し等、将来の景気や株価等の動きを保証するもでありません。

■レポート著者 プロフィール
氏名:太田光則
早稲田大学卒業後、ジュネーブ大学経済社会学部にてマクロ経済を専攻。
帰国後、和光証券(現みずほ証券)国際部入社。
スイス(ジュネーブ、チューリッヒ)、ロンドン、バーレーンにて一貫して海外の 機関投資家を担当。
現在、通信制大 学にて「個人の資産運 用」についての非常勤講師を務める。
証券経済学会会員。

関連記事