Instagram  tiktok

Monthly Report

Monthly Report 2021年1月号

2021年を迎えるにあたって

金融市場にとって新型コロナウイルス禍に揺れた2020年は、戦後最悪の景気後退の中での記録的な株価の上昇で歴史に残る年でもあった。
では2021年の世界経済と金融市場の見通しはどうなるのであろうか。
(1月1日 文責太田)

目 次
1、過去6回の丑年相場は?
2、20年の日本株を振り返る
3、OECDの21年の経済成長見通し
4、21年の世界株式市場の注目点
5、100円割れ円高予想が増えているが、
6、ドル/円100円接近と株価は
7、ざっくりと分析すれば日経平均3万1800円台

過去6回の丑年相場は?

私はあまり気にしないが、市場関係者は、毎年、年の瀬が近づくと次の年の干支(えと)が気になる。
皆さんと同じように2021年の相場を干支で見てみよう。

まず2021年は丑年だが、丑年相場を調べてみると相場の大天井になっていることが多い。
丑年の日経平均は、1949年(昭和24年)5月16日の取引再開来平均騰落率がマイナス6.3%と十二支中、最下位だ。
ただし、勝敗を見ると、通算6回は3勝3敗(上昇年は、1961年・1985年・2009年。下落年は、1949年・1973年・1997年)。
1949年は5月と9月の高値の後、ドッジデフレ(1ドル=360円の単一為替レートの設定)で暴落した。
また1961年は7月まで上昇後、「往って来い」となり下落、その後証券不況へ。

次に1973年は2月に変動相場制、10月オイルショックで年初から年末まで下落。
1985年は年初から4月まで上昇したが、9月のプラザ合意を経て年末まで横ばいで推移。
1997年は年初から6月まで上昇したが、7月アジア通貨危機で下落。
最後に、リーマンショックの次の年である2009年は3月底値、6月にかけて上昇、その後年末まで横ばいだった。

このように、6回の丑年は、上昇下落を交互に繰り返しており、仮にこのリズムが続くと、2021年の丑年は、下落の年になるかもしれない。
1949年以降の経験則でも年央に天井をつけて後半に下落する傾向があるようだ。
このところ日経平均3万円説が飛び交い、12月29日(実はこの日から21年受け渡し、実質新年相場入り)、あっという間に2万7000円を突破、1990年8月以来、30年ぶりの高値となった。
21年の見通しについて、市場関係者はやや楽観的になっているだけに、21年のどこかで「つまずき」となることも想定しておきたい。
おそらく、年央高、ここで日経平均3万円を付けるかもしれない。
その後調整、22年以降、歴史的最高値(3万8915円)を目指すと考える。

20年の日本株を振り返る

20年の日本株を振り返ると激動の1年だった。
日経平均は3月に入り、一時、約4500円急落であった。
3月19日には1万6552円と2016年以来4年ぶりの安値を付けている。
コロナの拡大でヒト、モノの動きが止まり、景気が悪化し、金融危機にもなるかもしれないという見方で、世界の株式市場も売られた。

その後、世界の株式市場は「V字回復」を見せ、日経平均は9月にコロナ以前の水準まで戻してきた。
米国を中心に巨額な財政・金融の支援を受け、景気は回復に向かうという見方がコロナ感染者拡大というネガティブな材料を相殺しながら株価は上昇を続けた。
12月9日には日経平均は2万6817円と29年半ぶりの水準に達した。
11月の米大統領選も市場が予想していたほどの混乱が見られなかったことや、コロナワクチン接種開始が始まったことなどのニュースが相次ぎ、経済回復の見通しが付いたとの見方が強まり日本株を後押ししたようだ。
そして12月29日、日経平均は30年ぶりの水準、2万7568円をつけたのだ。

OECDの21年の経済成長見通し

それでは実体経済の21年の予想はどうなっているのだろうか?
21年の世界のGDPはどう予想されているのだろうか?
12月1日OECD(経済協力開発機構)は経済見通しを公表している。

要約すると、世界経済は今後2年間で勢いを増し、2021年末までに世界のGDPはコロナ以前の水準に戻るとし、2020年の世界のGDPは前年比マイナス4.2%だが、21年にはプラス4.2%に達し、コロナ禍で沈んだ分を取り戻すとみている。
その牽引役は中国で20年はプラス1.8%、21年は同8.0%が見込まれている。
ちなみに米国は20年マイナス3.7%、21年がプラス3.2%。日本は20年がマイナス5.3%、21年は欧ラス2.3%となっている。
つまり中国を除く、多くの先進国は20年の落ち込みを取り戻すのに時間がかかりそうだが、少しずつ回復に向かうと見込まれる。

21年の世界株式市場の注目点

2021年の世界の株式相場の注目点は、米国経済、それを受けたFRB(米連邦準備制度理事会)の金融政策、米金利状況と、いつものように米国が中心。
そこで4点に注目したい。

(1)21年のコロナ感染状況は?
2021年もすべては「コロナ次第」である。
したがって、以下のような前提を置く。
今後は2020年3~5月のような厳格なロックダウンは回避される。
だが、少なくとも2021年春頃までは2020年12月頃と同程度の経済活動制限が残る。
2021年央以降は、ワクチン投与によって感染状況が徐々に好転。
この見方は、恐らく大多数の市場関係者の見通しに近いと思われる。

(2)米国の景気は順調に回復する?
直近米国の11月雇用統計によると、失業率は6.7%である。
これは9月時点でFOMC(連邦公開市場委員会)参加者が予想していた2020年10~12月平均値を0.8%ポイントも下回っている。
したがって、景気回復ペースはFRBの予想以上だったことになる。
コロナ以前のトレンドである前年比プラス3~5%にはなお相当な距離があるものの、4月のマイナス8.9%をボトムに急速に回復している。
当面順調に回復すると思われる。

(3)2021年のFRBはどう動く?
現在FRBは2023年末までFF金利(政策金利)をゼロ(※正確には0.125%)に据え置く方針を示している。
「失業率がコロナ禍発生前に戻るまで利上げはしない」という姿勢である。
もし21年もFRBの予想以上のペースで失業率が低下すれば、さすがに金融緩和姿勢に変化が生じるのではないだろうか。

ワクチン投与が順調に進み、サービス業が息を吹き返せば、現在大量の失業が発生している小売業、飲食・宿泊・レジャー業の雇用者数が急劇に回復し、失業率がFRBの想定以上に低下する可能性がある。
この場合、長期金利の上昇が見込まれる。

(4)米長期金利の上昇に対し株式市場はどの水準まで持ちこたえられるか?
19年末、米10年債金利は1.9%台だった。
これが20年3月と7月~8月にかけ0.5%台まで低下する場面があった。
つまりゼロ近辺まで下落した利回りではキャピタルゲインもインカムゲインも得ることはできないことを意味する。
したがって、現在の金利水準(0.9%台)は株価にとっても居心地が良いが、コロナの終息に向かう過程で金利は上昇して行くことは確実だ。
おそらく株式市場が許容できる水準はコロナ直前の1.5%くらいではないだろうか。

100円割れ円高予想が増えているが、

このところの円高にもかかわらず株安にならないことに注目が集まっている。
今年の円高、ドル安(コロナが始まった2月ころは1ドル110円、足元では103円台)は「円全面高」ではないことだ。
実はコロナショックの3月以降はドル安(ほとんどの通貨に対し)・円安(ドル以外の通貨に対し)のトレンドが続いている。
ただ、現在はドル安圧力のほうが円安圧力よりも強くなっているために、結果として対円でドルが103円台へとじりじり下落しているのだ。

したがって、他のクロス円相場(ドル以外の通貨とのレート)を見れば、通貨にもよるが円安に振れているものも多い。
ドル安が一段と加速したのは11月以降なので、同期間の主要通貨の対円での騰落率を見ると、ユーロは対円で3.6%上昇。
中国人民元も1.2%上昇、豪ドルは6.3%上昇している。

21年の外為市場はドル安予想が大勢。
米国の拡張的な財政政策や緩和的な金融政策が通貨安につながっている。
手詰まり感が強い日銀と市場が追加緩和策を期待できる米FRBとのスタンスの違いもあって、21年に1ドル100円割れを予想する為替のストラテジストも増えてきた。
しかし、筆者はドルが100円を大きく割れる公算は小さく、中長期的には円安方向へ反転していくと見込む。
ただしその前にいったん100円近辺までの円高・ドル安はありうると考えている。

厳しい円高にならないと見ているは、シカゴ市場のドル円先物のポジションが理由だ。
20年3月半ばから円の買い越し超(円の買い残が売り残より多い)となっている。
つまり、すでに投資家は先物で円を買ってしまっているという状況だ。

現在と似たような買い越し超の幅になった局面を過去に探すと、2016年半ばが相当する。
このときは、円買いを積み上げた投資家が反対売買(円売り)に転じ、一時100円割れだったドル円相場は逆に115円を超えるまでの円安となった経緯がある。
今回も同様な事態が起きるかどうかわからないが、円が1ドル100円を割ってどんどん進むというのは考えにくい。

ドル/円100円接近と株価は

世界的な財政支出拡大と金融緩和で株価も堅調なため、仮に対ドル円が100円の大台に接近しても、株式市場の心理の悪化にはつながってはいない。
過去は「円高恐怖症」とも言える日本株の動きがあったのに対し、最近のドル円相場と日本株における関係変化が背景にはある。
そこには前述したように、他通貨との関係が挙げられる。
確かにドルは対円で下落気味に推移しているが、先進国通貨でもたとえばユーロは対円で上昇方向であるなど、全面的な円高とは言いがたい状況だ。

また、日本企業はグローバル展開するにあたって、原材料や部品などを現地調達するなど、円相場の変動が収益に与える影響を抑えるような努力を長期間続けてきた。
その点では、かつての「円高恐怖症」が行き過ぎで、現状のような為替と株価の関係が「正常」になった、という解釈もできる。
内閣府の公表している企業行動に関するアンケート調査では、この4年間は製造業の採算レートは1ドル=100円程度で安定していることも「円高恐怖症」から解放された理由であろう。

ざっくりと分析すれば日経平均3万1800円台

日経平均は前述したように12月29日の新年相場で2万7000円超え、21年は3万円乗せの声が大きくなってきている。
しかし、一方ではコロナの終息は人類にとっては朗報だが、株価にとってはある意味では終わりを意味する。
景気回復についてもコロナと同様の考えだ。
ただ、コロナがすぐにただの風邪になるとは到底考えられず、景気もコロナショック後の急回復は限定的で、2021年中の相場終了はないだろう。

日経平均のテクニカルな分析ではどうなるか。
筆者はざっくりとコロナショックの「倍返し」の水準を当面のメドとシンプルに考えている。
倍返しとは、前述のコロナ前の高値2万4115円とコロナショックの安値1万6358円の差である7757円を2倍にして、安値の1万6358円に足すと3万1872円となる。
当然、コロナの収束の時期と景気回復の時期によって、その日柄(経過日数)は違って来るだろう。

30年ぶりの高値まで戻った日経平均株価の当面の目標をざっくりコロナショックの倍返しとしたのは、簡単に言えば日経平均はチャートの明確な節目が1989年の史上最高値(3万8915円)までないからだ。
しかしTOPIX(東証株価指数)にはそれがある。2018年1月の戻り高値1911ポイント(12月29日は1819)だ。

最近、動きが変わって来た重厚長大銘柄や、DX(デジタルトランスフォーメーション)化で稼ぐ力がついて来た化学、機械、鉄鋼などのオールドエコノミー銘柄の復活の兆しを考えると、この目標達成の可能性は十分にある。
21年にTOPIXがこの3年ぶりの高値を抜くことが日経平均3万円超えの条件となる。
TOPIXの上値の重しが一気に外れ、2000ポイント以上に進む可能性もあると見る。

さて、年明けの指標だが、1月5日は12月のアメリカのISM製造業景況感指数、7日は同12月ISM非製造業景況感指数、8日は同雇用統計にまずは注目だ。
ここでは数字もさることながら、その反応を見て、相場の質の変化を探りたい。
そして経済指標ではないが、20日の米大統領就任式も株価に何らかの影響を与えるかもしれない。

———————————–

本資料、一般社団法人FLSG(以下当会といいます。)が投資家の皆様に情報提供を行う目的で作成したもであり、投資の勧誘を目的に作成されたもでありません。本資料は法令に基づく開示書類でありません。本資料の作成にあたり、当会は情報の正確性等について最新の注意を払っておりますが、その正確性、完全性を保証するもでありません。本資料に記載した当会の見通し、予測、意見等(以下、見通し等)は、本資料の作成日現在のものであり、今後予告なしに変更されることがあります。また、本資料に記載した当社の見通し等、将来の景気や株価等の動きを保証するもでありません。

■レポート著者 プロフィール
氏名:太田光則
早稲田大学卒業後、ジュネーブ大学経済社会学部にてマクロ経済を専攻。
帰国後、和光証券(現みずほ証券)国際部入社。
スイス(ジュネーブ、チューリッヒ)、ロンドン、バーレーンにて一貫して海外の 機関投資家を担当。
現在、通信制大 学にて「個人の資産運 用」についての非常勤講師を務める。
証券経済学会会員。

関連記事